この1ヶ月D2Cビジネスがなぜ急激に成長しているかを考察しながら事例をご紹介しました。

D2Cビジネスの市場が2015年頃から急成長しており、今後の注目も非常に高い市場である事がよくわかりました。

同時に、海外ブランドやスタートアップ企業が成功をおさめており、日本の小売業者は置いてけぼりということもわかりました。

日本の小売業はスタートアップや海外ブランドに駆逐され生き残れないのでしょうか?

日本の小売業界がなぜ新しいモデルに挑戦できないのかを考えていきます。

まずは急加速をしているD2C、海外で事例が出始めたDNVBについて簡単に概要をお伝えします。

D2Cビジネスとは?

D2CとはDirect to Consumerの略で、消費者に対して商品を直接的に販売する仕組みの事を指します。

販売されるものはサービスではなくプロダクトで、行われている事自体が新しいわけではありません。

例えば農家の方が畑で野菜を作り直売所で消費者に直接売っていればこれもD2Cです。しかし、今までの直売とは違う、テクノロジーを活用したビジネスモデルが2015年頃から日本でも注目を集めています。詳しくは以下の記事を参照してください。

D2Cの市場規模とその背景

 

DNVBとは?

「DNVB」とは「Digitally Native Vertical Brand」の略称で、1980年~2000年初頭生まれのデジタルネイティブ世代に対し、バーティカル市場(ニッチな市場)において、商品やサービスを販売するブランドのことを指します。

DNVB はD2Cのビジネスモデルの一つではありますが、商品(モノ)の訴求よりもブランドの存在意義や制作秘話、ストーリー、参加型キャンペーンなどの体験を得られるコンテンツ(コト)からターゲットの共感を獲得し、ブランド価値の向上を目的としています。これまでは「モノ」を購入してもらうためのマーケティングが主流でしたが、DNVBはブランドが提供する価値、体験といった「共感を得るコンテンツ」によるブランドコミュニケーションを通してブランドを作っていくモデルです。

ターゲットであるデジタルネイティブ世代がよく触れるInstagramやTwitterなどのSNSや、YouTubeを活用したマーケティングが活発に実施されるという特徴があります。そして、共感したターゲットによってコンテンツが拡散されることで、ブランド認知度が上がっていきます。

 

 

日本の小売業がD2C/DNBVに挑戦できない理由

 過去の成功体験が邪魔をする

参考:NRI(2020に向けた小売業態のあり方)

日本の小売業の変遷をみると、百貨店→GMS→コンビニ→ECプラットフォームといった流れで進化してきました。ここでいう日本の小売業とは主に百貨店やGMSの事を指しますが、特に百貨店は高度経済成長の恩恵を受けて売上を伸ばしました。

戦後間もない日本は金銭的・物質的に枯渇していましたが、モノづくりを中心とした産業で急速な成長を遂げました。頑張れば、頑張った分経済の成長を実感出来たのです。皆が同じ目標に向けて努力し、同じ様に幸せになれると強く信じていた労働観は消費者の価値観にも大きく影響を及ぼし、みなと同じモノを所有することがステータスと感じられていました。

その結果、休日には家族で百貨店に行き有名ブランドにお金を掛けていたのです。マイホーム主義、マイカー主義もこの表れといっていいでしょう。

高度経済成長の終息に向けて消費者の価値観も大きく変わり、安く満足できて便利なGMSへと業態が変わります。

しかし、百貨店は過去の栄光に縋り自分たちのやり方の問題点に気づくことが遅れ、売上を落としていきます。

日本企業、とりわけ百貨店がD2C/DNVBに挑戦できない理由として、成功体験があるが故に自分たちの事業や過去を正当化し続けていることが挙げられます。

 

 既存ビジネスとの調和がとれない

小売業に限った話では無いが、企業がD2CやDNVBなどの新規事業を立ち上げる場合、必ず直面するのが既存事業とのコンフリクト(摩擦や矛盾)の問題だと考えています。

多くの企業で新規で何かに挑戦しようとすると既存事業とのシナジーをいかに生み出せるかが判断条件になることが多いですが、店舗や工場設備、顧客基盤など、既存事業が保有する経営資源の一部を借用しトライアルを行う場合は些細なことでも既存ビジネスの部門と問題が生じます。

例えば、D2Cビジネスに挑戦したい部門は素早くサービスをローンチしてスタッフやユーザーからのフィードバックを得ながらスケールすることを望みますが、既存ビジネスの部門からするとスタッフの「標準化されていない業務はスタッフのリソースを多く使うので…」「ユーザーが不信感を抱き満足度が低下するのでは…」といった声がでます。

そのため、若しくは現場感での事前のネゴシエーションに成功しないと既存ビジネスと調整しながらすすめるのが困難なのです。

日本の企業は多くのことを現場の自助努力に頼りがちですが、変革や創造には、経営トップの強いメッセージが大きな推進力になり、管理職同士での検討を進める環境をを作れるかが推進力の決め手となります。

 

 既存のPLで考えてしまう

青:新規事業のキャッシュフロー  ピンク:既存事業のキャッシュフロー

もう一つの理由として、実行判断を行う者が適切な意思決定を行えていないことが挙げられます。

上述した「既存事業との調和」に通ずるところがありますが、D2C/DNVBなどの新規事業を既存のPLを基準に考えてしまい、取り組むべきかを判断してしまうのです。多くの日本企業では既存事業と新規事業を棲み分けて評価することが出来ず、新規事業に対しても既存事業のPLと同じ様に短期至上主義の価値観で評価してしまいます。

売上やコストなど様々な面での額面が折り合わず、またキャッシュフローの観点で見てもまるで違います。上図を見るとわかりますが、新規事業を行う際には先行投資が発生するため一時的にマイナス収支になります(青線)。日本企業の多くでは実行判断、企画・開発、サービスリリースとそれぞれのプロセスで多くの時間が掛かります。短期至上主義の観点で見ると事業が成功していない様に見えるため、この後の資金回収・スケール前に事業を畳むことになるのです。

リスクマネーの投入と長期での評価をが行われない限り、D2CやDNVBへの挑戦は難しいでしょう。

D2Cの市場規模は急速に成長している

2015年時点での市場規模は13,300億円程度でした。

当時、5年前はまだD2Cという言葉を聞いても理解できる人は少なかったと思います。

2010年から2015年にかけて米国で先駆けてD2Cが加速し、その後日本企業の参入も見られました。現在では日本国内でも様々なカテゴリーでD2Cブランドの設立が加速していきます。D2Cビジネスの市場規模について、またここまで急速に成長している理由などについては以下を参照してください。

D2Cの市場規模とその背景

日本の小売はD2CやDNVBに駆逐されるのか

ー完全に駆逐されることは無いが、既存ビジネスの市場は縮小すると考えられます。

こちらの記事でも紹介している通り消費者の価値観が大きく変わりつつあります。

商品そのものを購入するのではなく、生産者の想いや生産のストーリーなど、販売されているモノやサービスに付帯する情報(価値観)に共感し支払いを行う傾向が強くなってきており、ただのモノ売りで生き残れる企業は少なからず減少するでしょう。

ただ、完全になくなるのではなく生活消耗品などのプロダクトは安くて便利に購入できる事が価値なので、そこに生産のストーリーは求められないです。

 

いずれにせよ大量生産・大量消費の時代は終焉を迎え、新たな消費観のもと小売の業態も変化が求められていきます。

日本の小売も消費者や市場の変化に柔軟に対応し、D2CやDNVBといった新しい業態に挑戦する壌土を育むことは急務です。

 

近日公開の記事で、シリコンバレー発の新しい小売店「b8ta」の記事を公開予定です。

お楽しみに!!