新型コロナウィルスの感染拡大による行動制限で、物理的な「場の提供」とともにサービスを行うビジネスは大きな打撃を受けました。

新型コロナウィルスによる業種別倒産件数をみると1位が飲食店、2位がホテル・旅館、3位がアパレル・雑貨小売店です。小売業において、アパレルの受けた影響は甚大です。新型コロナウイルス関連業種別倒産数では、小売業ではTOPの53件になっています。

 

©TEIKOKU DATABANK,LTD. |:「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査2021/01/08

 

しかし同時に、社会インフラである食品や日用品などの生活必需品を取り扱う企業では、新型コロナウィルスから顧客と社員を守りながら、営業を行わなければならない状況でもあります。

そのような状況において、注目されているのが「非接触ビジネス」です。「売上拡大」と「顧客と社員の安全を守る責任」を同時に達成できるビジネスモデルになっています。

またデロイト トーマツ グループが公開したレポート「非接触経済の台頭~コンタクトレス・エコノミーがもたらすCOVID-19危機後の世界」によると、非接触ビジネス全体の市場規模は、APACの家計消費支出のうちの約6割、11兆ドルが影響を受けるようになるとみられます。つまり市場自体の規模もこれから大きく市場が伸びていくと見られます。

そこで本記事では、新型コロナウィルスによって変化した新しい生活様式に対応し、コロナ禍を自社の「成長の機会」に変えるヒントになる「小売業界の非接触ビジネスの事例」をご紹介いたします。

 

非接触ビジネスとは?

私たちの考える非接触ビジネスとは、
①家庭外にあった消費者の接触ポイントが家庭内に移行した「在宅ビジネス」
②家庭外の消費者の接触ポイントが技術の革新によって非接触型に移行した「非接触型の家庭外ビジネス」

になります。上記のように、これまであった接触ポイントを技術革新やサービスの変化によって、非接触に移行させたビジネスを非接触ビジネスとして定義しています。

デロイト トーマツ グループ|「非接触経済の台頭~コンタクトレス・エコノミーがもたらすCOVID-19危機後の世界

 

「非接触ビジネス」を考える上で重要なポイント

非接触ビジネスへ移行を考える上で大切になるのが、当たり前ですが、接触ポイントを正しく把握することです。接触ポイントを正しく把握し、非接触に変化させることが重要です。

小売業における接触ポイントは大きく分けて、以下の2点になります。
①顧客と従業員の接触
②顧客同士の接触
以上の2点を具体的な企業の事例からどのように回避しているのか見ていきましょう。

 

事例①
スターバックス|モバイルオーダーでニーズに応えるパーソナライズが可能に

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社|プレスリリース2020/11/30

非接触ビジネスで現在一番注目されているのがモバイルオーダーです。

スターバックス コーヒー ジャパンでは12月より、事前に注文決済し、レジに並ばずに商品を受け取ることができる「Mobile Order & Pay」(モバイルオーダー&ペイ)全都道府県のすべての直営店で活用できるようになりました。

これによって、上記の接触ポイント①と②を両方大幅に減少させることに成功しました。また接触機会を減らす以外にも、モバイルオーダーを導入したことによるメリットがあります。

それはユーザーのニーズに対して、パーソナライズが可能になり、結果的にユーザーの満足度を高めることが可能になりました。

以下はユーザーがMOP(Mobile Order & Pay)を利用する理由のランキングになります。

 

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社|事前注文決済サービスに関するアンケート結果(調査期間:2020年 10 月 16 日~22 日)

MOP利用者の理由を見ると「列に並びたくないから」「非接触サービスで安全に利用したいから」など、接触を避ける理由もあります。
しかしそれ以外に「商品をゆっくり選びたいから」「カスタマイズを選びたいから」など、自分らしい楽しみ方を重視するニーズも多い結果となりました。

そしてモバイルオーダー&ペイを利用するためのスターバックスの会員プログラム「Starbucks Rewards」は、会員数が620万人を突破しました。その伸びは2020年2月以降、前年同月比30%増~70%増で推移しており、新たな生活様式に寄り添うプログラムとして順調に成長しています。

モバイルオーダーは単純な接触機会を減らすだけでなく、活用方法によっては多様化するユーザーに応え、満足度を高めることが可能にするためのツールとも言えます。

事例②
美団外売(Meituan Waimai)|食品専用のスマート受け取りロッカーで接触を最小限に

「美団外売(Meituan Waimai)」や「餓了麼(Ele.me)」などのフードデリバリープラットフォームが、新型コロナウイルス流行期間中、美団外売は全国各地に出前された食品専用のスマート受け取りロッカー1000台を配備しました。餓了麼の物流部門責任者である呉雪煒氏も、上海市に1000台、全国に3000台のロッカーを配備する予定だと明らかにしています。

キャストビジネス中国|宅配ロッカーを活用した「置き配」が普及??

ロッカーでの受け取りのメリットは、接触を最小限にできるだけではなく、配達効率の改善にも寄与します。

以下のアンケート結果にあるように、配達スピードはユーザーの満足度へ直結するので、かなり重要な要素になってることがわかります。

DIMSDRIVE|デリバリー(出前)」に対する不満点は何ですか?

受け取りロッカーがあることで、配達者は配達先を探し、迷う必要がありません。
またユーザーとしても、配達者が迷った時の対応や精神的ストレスを感じる必要がなくなります。

このように非接触ビジネスにすることで、より良い顧客体験を提供することができます。

事例③
LEMONADE by Lemonica|「レジ無し」営業店舗がスタート

株式会社レモネード・レモニカ|プレスリリース

2020年8月1日より、「渋谷ストリーム店」を全店初のスマホアプリからのご注文専門店として、遠隔地や前日購入と共にレジを使わない営業がスタートしています。

これにより従業員はドリンクの提供に専念することができます。そして人件費を削減することができるため、モバイルアプリのみで注文できる会員限定メニューや先行発売商品の注文などの施策を行えるようになりました。

実際に企画として、Lemonicaのスマートフォンアプリ「SMART ORDER(スマートオーダー)」の100万件ダウンロードを目指し、「100万人100万杯キャンペーン」と題し、ダウンロード初回特典として、もれなく1人1杯「ティオレモネード」をプレゼントを行っています。

そして結果としては、8月1日にリリースされた「SMART ORDER」ですが、わずか4ヶ月で12万人の会員登録を達成しています。

またLemonicaでは、より接触機会を最大限減らす為に、モバイルピックアップボックスを順次全店舗に設置しています。お客様に事前に受け取り番号をお知らせし、お受け取り時にその番号のボックスから商品を取ることが可能になっています。

株式会社レモネード・レモニカ|プレスリリース

このように非接触ビジネスにすることで、リソースの分配を変え、より高い成果をあげることが可能になります。

まとめ

今回、非接触ビジネスの事例をご紹介させていただきました。
ただ接触ポイントを減らすだけではなく、より良い顧客体験設計を行うことで、これまで以上の成果をあげている事例を紹介させていただきました。

冒頭に説明させていただいた通り、この非接触ビジネスの市場規模は非接触技術の発展も伴い、今後も拡大していきます。その中で既存事業戦略に囚われず、体系的な見直しを行い、非接触だから可能な顧客体験の設計を行うことが自社のブランド価値をより高め、継続的な成長の基盤になります。

新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は大きく変化しています。大きな変化の中で事業を推進する企業のみなさまにとって、この記事が少しでもお役にたてましたら幸いです。

 

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