小売業界では、「BOPIS」の仕組みを取り入れる企業が増えています。
米国では、ブラックフライデーにおける「BOPIS店舗」のコンバージョン率が「非BOPIS店舗」の6割を上回る結果になりました。
日本おいてもヨドバシカメラや無印良品など「BOPIS」に取り組む事業者が現れ、その流れは小売業だけでなく飲食業界にも押し寄せてます。
いったいなぜ、急速に広まったのでしょうか?
その要因は、消費者の購買行動が大きく変化したからだと言えます。
こちらの記事では、「BOPIS」が広まり始めている要因とメリット、国内外の事例と効果を合わせてご紹介します。
BOPISとは?
BOPICとは「Buy Online Pick-up Store」の頭文字のことで、「ボピス」と呼ばれています。
これは、事前に欲しい商品をオンラインで購入(予約)し、商品を店舗で受け取ることができる仕組みのことです。特徴は事前に注文しておけば、自分の好きなタイミングで商品を取りに行くことができます。
日本では、ワークマンが「BOPIS」の著しい成功を納めており、オンラインストアの65%の客が店舗での受け取りサービスを選択しています。年間12万人以上がオンラインで注文し、店舗に来店しました。
Click&Collect(クリック&コレクト)の一種としてBOPISが存在します。
Click&Collect(クリック&コレクト)は、アマゾンのコンビニ受け取りのようなオンラインで注文し自宅以外で受け取ることを指しています。
BOPISが広まり始めている要因
米国におけるBOPIS
2015年にはすでに「BOPIS」を取り入れている事業者が数多く存在していました。
「Walmart(ウォルマート)」のような総合スーパーでは、セルフレジの導入が進みレジ待ちの行列は少なくなりました。しかし今度は逆に、店頭受け取りカウンターに行列ができるようになってしまったのです。
行列の対策として、BOPIS利用客専用に自動受渡しのロッカーが登場しました。現在、大手の小売業ではBOPISに対応していない店舗が少なくなっています。
なぜ急速に広まったのか?
出典:emarketer.com
米国においてBOPISが急速に普及した背景として以下のグラフから時短と送料節約が主な理由を占めています。
2019年のiVend Retail「Global Shopper Trends Report」によると、(BPOIS)を利用する理由の1位として47.4%のユーザーが「送料を避ける」と回答しています。
アマゾンプライムなどで送料無料に慣れているため、送料が発生するところにもったいないと感じる傾向にあると考えられます。
2位は「店頭での買い物に時間をかけたくない」で、44.4%を占めています。
さらに3位〜5位も商品購入に関するあらゆる「時間を節約したい」という需要が考えられます。
6位には、「返品が簡単だから」という理由があります。これは店舗だからこそ簡単にできることです。万が一受け取った商品に損傷や不良が見られた場合その場で返品が可能となっています。
- 1位「送料を避ける」47.4%
- 2位「店頭での買い物に時間をかけたくない」44.4%
- 3位「即日すぐに受け取りたい」38.9%
- 4位「店舗に行く前に在庫を確認したい」38.5%
- 5位「店舗での購入に時間がかかるから」38.1%
- 6位「返品が簡単だから」21.2%
- 7位「店舗受け取りサービスを利用しない」16.3%
日本におけるBOPISの広がり
ここ1年で国内のBOPIS店舗は急激に増えました。その背景には新型コロナウイルス感染予防が大きく関わってきます。
今まで当たり前だった生活スタイルが短期間で変化をとげました。日用品の購入はオンラインで行い、極力屋外での活動を避け、外食を控えるなど、数年前ではあまり意識されなかった、非接触や屋外の長時間滞在を避けるなどが現在では当たり前になっています。
このことから販売店舗における感染予防対策が事業者の課題になっています。
課題解決の1つとして店舗の滞在時間を最小限にし接触回数を減らすことが期待できる「BOPIS」を導入を検討する動きが加速しています。
BOPISのメリット
ここまで、BOPISの概要と国内外で導入が進んでいることについて解説してきました。そして日本でBOPISが広がっている理由は滞在時間、接触回数を最小限にするために有効な手段であることがわかりました。
では実際にBOPISを導入した場合、ユーザーと店舗側に得られるメリットはどのようなものでしょうか?
ユーザーと事業者にわけて解説してきます。
<ユーザーメリット>
- 送料の負担なし
- 米国で「BOPIS」が普及する理由の1つになっています。
- 時短需要と接触を最小限に
- 実店舗で商品を購入する場合、商品を探す時間やレジ待ちなど意外に時間がかかってしまうことがあります。しかし「BOPIS」を利用することで、好きなタイミングに欲しい商品を売り切れの心配をすることなく短時間でストレスフリーに買い物ができます。
- 接客の煩しさがない
- スマートロッカーなどを導入することで店員との接触を0にすることが可能です。店員とのコミュニケーションをしたくないと思っている一定の層を獲得することができます。
- 品物へのリスクをなくせる
- 自宅への配送は便利な反面、返品対応がめんどくさいことがデメリットになります。もちろん商品によって異なりますが、店舗で受け取りであれば、不良品などの返品対応をその場で行うことが可能となります。
また最近定着し始めた、置き配の盗難リスクをなくせることも期待できます。
<事業者メリット>
- 店舗の面積縮小と人件費削減
- 特に大型の店舗などは、レジ業務や品出しのスタッフの人員確保が課題になっています。「BOPIS」であれば事前決済などでレジ業務をなくすことが可能で、人件費を抑えることが可能になります。さらに、オンライン中心の販売であれば実店舗に見せる用の商品だけ並べておくだけで済みます。これにより実店舗の売場面積縮小が期待できます。
- 顧客データの獲得
- これまで現金決済をしていた顧客のデータは会員登録などしていない限り把握することは困難でした。しかしこれまでの現金ユーザーが「BOPIS」を利用することにより、多くの顧客データを獲得することができます。これを用いてより効果的なマーケティングを実施することも可能になります。
- 「ついで買い」の誘発
- BOPIS を利用する顧客は、オンラインで注文した商品以外にも、店頭で何か商品を購入する割合が高いというデータが出ています。例えば靴量販店(米国)「DSW」では、店頭受け取り顧客の 15-20%が、ついで買いをしています。BOPIS を使いこなす顧客は、店頭での購買しか行わない顧客の 2.7 倍消費単価が高いというデータもあり、急速に BOPIS を取り入れる店舗が増えています。
BOPIS事例と効果
ここまでBOPISの日本での広がりとメリットを紹介してきました。
では実際にBOPISを取り入れることで、どのような効果が得られるのでしょうか?
国内外の事例を紹介しながら、実際に得られた効果を合わせてご紹介します。
<国外>
The Home Depot(ザ・ホーム・デポ)
出典: homedepot.com
米国のホームセンター大手The Home Depot(ザ・ホーム・デポ)では店舗受取の利用率がで45%以上となっています。ホームセンターは小売業の中でも特に店舗が広く、在庫数もスーパーとは比べ物にならないほど多いです。
DIYが盛んな米国では建築資材や工具、アウトドア用品などあらゆるものが揃っています。そして購入の際には、資材などしっかり実物を見てから購入していくのが一般的です。受け取りカウンターには巨大な台車に載せたあらゆる商品が持ち込まれ、客はそれを受け取ります。こうした事情からホームセンターが BOPIS と非常に親和性が高いことがわかります。
<国内>
カインズ(CAINZ PickUp)
出典:cainz.com
「CAINZ PickUp」は2019年12月から開始し、2021年度までに全国展開を予定です。
特徴はオンラインショップまたは専用アプリから欲しい商品を選ぶことで、カインズ店舗内に設置してあるロッカーで受け取りが可能となっています。最短で注文当日に受け取り可能で4日以内であれば取り置き可能となっています。
ロッカー受け取りサービスの多くは、注文時に決済されることが一般的です。しかし「CAINZ PickUp」は店舗での決済となっています。それは顧客から「実際に商品を見てから購入したい」「他の商品と合わせて買いたい」などのニーズを反映しています。受け取りロッカーの稼働率は徐々にあがっていて、各店舗に設置してある23個のロッカーは1日あたり2〜3回転しているとのことです。
現在アプリ会員が120万人で月間のアクティブユーザーが80万人となっています。しかしまだロッカー受け取り機能を知らないユーザーが多く、今後サービスやUIを改善してアプリ機能の認知拡大が課題となりそうです。
ワークマン(店舗受取サービス)
出典 workman.jp
2020年3月中旬より「店舗受取サービス」を開始しました。
特徴は、24時間注文可能で最短注文から3時間で店舗受取が可能となっています。また送料も無料で、通常のネット注文で自宅に届ける場合、買い物金額が1万円以下になってしまうと送料が発生します。しかし「店舗受取サービス」を利用することで、金額関係なしに1点から注文が可能となっています。
ワークマンは2020年2月から楽天市場撤退しています。これにより売上に影響が出ることが予想されました。しかし撤退の2020年2月の売り上げも前年比132.9%、コロナ禍で市場が落ち込んだ第1四半期でも減退すること無く成長を続け、6月には前年比144%をマークしました。さらにワークマンのネット通販のうち67%が店舗受け取りサービス(BOPIS)を利用しています。このように(BOPIS)を取り入れることで効果的に店舗の売り上げを伸ばすことが可能となります。
まとめ
ここまで「BOPIS」について解説してきました。
2015年に米国で普及し始め、2020年に日本でも急速に広まりました。ここで抑えておくべきポイントは、米国と日本では「BOPIS」の広まり方が違うということです。米国では時短と送料節約というニーズがBOPIS普及の後押しをしました。一方、日本では感染予防対策としてBOPISを導入する事業者が増えています。
これからBOPISを導入をする場合、単に感染予防対策の1つだけでなく、店舗売上の拡大も期待できる仕組みであることがわかります。
「BOPIS」にテクノロジーを組み込むことは、単にシステムを導入するだけではありません。これまでの在庫管理や基幹システムなどと連携が必要となり、大掛かりな投資が必要となってきます。ですが、導入によって得られるメリットは大きいのではないでしょうか?
顧客のニーズは常に変化します。変化し続ける市場に淘汰されることなく対応していくためには、BOPISの導入を検討してみはいかがでしょうか。