ビッグデータやスマートデバイス、AIなどの活用が進み、かつてないデジタル技術革新が進んでいます。
WebやSNSで顧客体験が拡散される現代社会においては、商品やサービスの本質は容易に見抜かれてしまいます。つまりこれまでと同じマーケティング・体験設計では消費者にアプローチが難しくなってきているのです。
そのような状況において、これから重要になるキーワードが「HX(Human Experience)」です。
本記事を読むことで、HXの概要を把握することができ、HXを踏まえた「これからのマーケティング・体験設計」について理解することができます。
目次
①HX(人間体験)とは?
②HXがこれからのマーケティングで重要な理由
③HXを理解するためのキーワード①|経験負債
④HXを理解するためのキーワード②|Purpose Driven
⑤HXを理解するためのキーワード③|Kill Value Proposition
⑥まとめ
HX(人間設計)とは?
これまでのマーケティングにおける顧客視点では、潜在顧客から見込み客、新規顧客、既存顧客へと直線的に関係を引き上げていく形でした。つまり「消費行動」にしか着目していませんでした。
しかし消費者は自社の顧客としてのみ存在しているわけではありません。消費者のニーズを的確に理解するためには、ある側面だけではなく、人間(Human)としての存在に向き合う必要があります。
その上でHXとは、「Human Experience(人間としての経験:以下、HX)」の略称になり、上記の式で表現されます。
そしてこのHXは大きく2つの方向性があります。
1つ目は消費者一人ひとりの体験範囲をより広く捉えることです。つまり、消費が直接関与しない部分も含めて、ホリスティックに対応する方向性です。
こちらは個人の多面性に注目し、消費行動の側面だけではなく、それ以外の側面にも視野を広げるということです。
2つ目はマーケティングの対象を拡大することです。
つまり、顧客(Customer)だけでなく、自社の従業員(Employee)、ビジネスパートナー(Partner)、さらには地域や社会を含む全てのステークホルダーとの体験価値の最大化を目指すものです。
これは企業と顧客だけではなく、従業員、ビジネスパートナーとの関係性、インタラクションの全てをマーケティング対象として含めるということです。
HX的な観点ではあらゆるステークホルダーへの価値提供を目指すため、その射程は大きく広がります。
HXが重要な理由
ではなぜHXが重要のでしょうか。
それぞれについて説明をしていきます。
①商品のコモディティ化

現在では市場が成熟し、インターネットの普及や海外からの輸入といった要因もあり、企業ごとの商品の差異は小さくなりつつあります。

引用:SCOTT BEDBURY 2002 『なぜみんなスターバックスに行きたがるのか?』(講談社)
その結果「商品経済」から「経験経済」へとシフトしています。
あくまで商品には価値はなく、その商品によって人々に経験・感動の提供をすることに価値があるという考え方になります。
この傾向はこれからのより顕著になってきます。そしてその対象となる経験範囲はこれまで以上に広くなり、それが顧客・従業員・パートナーになるのです。
②顧客体験の複雑化
テクノロジーの進化によって、顧客の体験自体が多岐に渡ってきました。それによりこれまで通用してきたマーケティングや体験設計が通じなくなってきています。
企業と顧客の接点は、デジタルチャネルの多様化により、実店舗からベッドの上から移動する乗り物の中まで、あらゆる時や場所にわたって無数に存在しています。
さまざまなデバイスや場所、チャネルをまたいだ複雑な顧客行動は、顧客が意図的に行っているものではありません。
つまり、これまで同様に顧客の「消費者」という側面だけに注目していては、顧客の本質的なニーズを見つけることが難しくなっています。
③デジタル化による経験負債
消費者的側面のみで行われたマーケティングでは、顧客は無駄な時間や意識コストを膨大に払い、そのうえでかなりストレスを受けています。
このようにパーソナライズされたプロモーションがネガティブな影響を及ぼしています。その結果、消費者はますます不信感を募らせて企業との接点を減らし、データの提供を拒むようになってきています。
負債を返済し、関係の再構築するためにも、人間として観察し、体験設計を行うことが重要なのです。
経験負債についてはキーワードで詳しく記述させていただいております。
HXを理解するためのキーワード①|経験負債
近年のデジタル・テクノロジーの進展は私たちの消費生活を一変させました。
変化は圧倒的な便利さと効率性をもたらした一方で、消費者のニーズから乖離したネガティブな影響も生み出しています。
経験負債とは、パーソナライズしたプロモーションによって「望まない経験の積み重ね」が起こってしまうことです。
本来なら顧客価値と企業収益の双方を高められるはずのデータ活用が、逆に負債を積み上げている可能性があるのです。
デジタルシフトが進めば、経験負債の蓄積は今以上に進むと考えられます。
しかし個人データを活用しないマーケティングを行うわけにはいきません。
デロイト社の研究では、人間は根源的に「個人の目標達成(私)」「帰属意識(私たち)」「好奇心(未知)」「統制(既知)」という4つの価値観を志向することを発見されました。
そして、これらの相互作用によって「新しいことに挑戦する」「新しいことを学ぶ」「他者と共有する」「他者を思いやる」といったさらに4つの価値観が生まれることが分かりました(図表)。
企業は商品やサービスを通じて、これらの価値観や活動をサポートすることが経験負債を蓄積させずに、顧客のニーズにアプローチする方法なのです。
HXを理解するためのキーワード②|Purpose Driven
続いてはPurpose Drivenです。
Purposeとは、「なぜこの企業が存在するのか?」という問いへの答えです。
多様なステークホルダーを統合的に取りまとめるHXの実現には、その根幹に社会的意義のある目的(=Purpose Driven)を掲げることで1つの方向に向かい、そして一人ひとりのステークホルダーに人間として誠実に向き合っていくことが重要になります。
こうしたアプローチは、一見遠回りのようですが、顧客がより複雑化し、不確実性の高い時代において、持続的な成長のための最短ルートと言えます。
デロイト社の研究によると、Purpose-drivenな企業は長期的なロイヤルティを得たり、顧客とより深い関係性を築いたり、人財を惹きつけたりするプロセスを経て、より高い成果とインパクトを達成している傾向が見られるという研究結果もあります。
このように企業が多様化したステークホルダーに一貫した体験価値の提供を行うためには、このPurposeを確固たるものにする必要があるのです。
HXを理解するためのキーワード③|Kill Value Proposition
Kill Value Propositionとは、商品性だけでなく、取り囲む顧客の環境にまで体験設計の範囲を広げて、卓越したプロダクト・サービスです。
前述の通り、商品のコモディティ化が進み、情報もすぐに世界中に広がる現代においては、消費者は多彩な商品やサービスを比較検討できます。
こうした環境で選ばれるためには「本物の提供価値」を持っていることは最低条件であり、さらに「選ばれ続ける」ためには他の選択肢を凌駕する圧倒的な提供価値が必要になります。
その実現には、前述のPurpose DrivenとHXを掛け合わせて、人間らしい経験、より深く人間活動にフォーカスしたマーケティング・体験設計が不可欠になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、HX(人間体験、Human Experience)についてご紹介させていただきました。
顧客が複雑化し、不確実性が高い時代において、目先の顧客の行動やデータに振り回されるのではなく、顧客の多面性を理解し、想像を広げて体験設計を行うことが重要になります。
その為には、企業の土台になるPurpose確立、Purposeを踏まえた多様化したステークホルダーへの体験設計などが必要になります。
大きな変化の中で事業を推進する企業のみなさまにとって、本記事が貴社に貢献できれば幸いです。