長引く新型コロナウィルスの影響で、小売業界においては、これまでと同じ販売手法で売上を伸長することが難しくなっています。
そんな中で新しい販売手法として注目されている「EC×店舗の融合」について着目しました。
本記事では、複数の事例を紹介させていただきます。
その事例を通して、「EC×店舗の融合」の手法についてご理解いただけます。
【目次】
ECと店舗が必要な理由
店舗×EC 事例❶|@cosme
店舗×EC 事例❷|BONOBOS
店舗×EC 事例❸|蔦屋家電+
店舗×EC 事例❹|UNIQLO
まとめ
店舗とECの融合が必要な理由
まずそもそもなぜ店舗とECの融合が必要なのかご説明します。
この店舗とECの融合が必要な理由は以下の3点あります。
①感情的に満足した顧客の重要性
②プラットフォームECの巨大化
③日本のEC化率
それぞれについての詳しい説明は以下記事をご覧ください。
店舗×EC 事例❶|@cosme

「@cosme TOKYO」は、化粧品口コミサイト「@cosme」の初の路面店です。
百貨店で取り扱われるラグジュアリーブランドから、いわゆるプチプラ商品まで約200のブランドを展開しています。
@cosme TOKYOは「ネットとリアルの新たな融合で、ユーザーとブランドをつなげる」という目標で作られています。
その為に、ただ店舗をIT化させるわけではなく、新しい顧客体験を生み出す仕掛けがたくさんあります。
例えば、@cosmeで週間ランキングを獲得した商品を展示していたり、動画配信を行う公開型スタジオ「@STUDIO(アットスタジオ)」ではタレントやクリエイター、モデル、インフルエンサーなどがライブ配信を行っています。
来客中のユーザーや店頭の通行客だけではなく、店舗にいないユーザーも配信動画をリアルタイムで視聴できる仕組みになっています。
また、新型コロナウィルスの影響で店に長時間滞在したくないという消費者の声もあり、@cosme TOKYOのブログやSNSアカウントの投稿から商品を予約し、店舗で受取り・会計ができる取り置きサービスも始めています。

またバーチャルで店舗を体験できる「@cosme TOKYO -virtual store-」を2021年1月にオープンしています。
この@cosme TOKYO -virtual store-ではARを活用し、@cosme TOKYOを体験しながら、コスメを「手にとって、試す」ことも、実際に「購入すること」も可能になっています。


このようにECと店舗の融合をリードする@cosmeですが、ECと店舗の融合を行う上で大切にしていることをコスメネクスト代表取締役社長の遠藤宗氏は以下のように述べています。
@cosme TOKYOは単なる店舗という箱や売り上げを上げるという概念ではなく、「お客様がブランドとつながる体験をいかに作ることができるか」ということを重視して店作りを行った。肌解析やバーチャルメイクを取り入れているが、それは店頭をIT化したいということではない。お客様にバーチャルテクノロジーを通じてさまざまな体験をしてもらいたい、ということだ。
@cosme TOKYOで買い物をしてもらえなくても良いと考えている。「お客様と新しいブランド、商品との出会いをどれだけ作れるか」ということが@cosmeが果たすべき役割だからだ。
「日本の化粧品小売業を世界に発信したい」「世界で通じるような、勝負できるような店舗づくりをしたい」と思っている。@cosme TOKYOはその役割を担う店舗になる。(遠藤氏)

【POINT】
①店舗にいない顧客もターゲットにした店舗設計
②オンラインとオフラインでの体験を実際に重ね合わせる
店舗×EC 事例❷|BONOBOS
米国のメンズアパレルブランド「BONOBOS」です。
2016年より、顧客情報やアプリの利用履歴、実店舗での接客内容、決済データなどを一元的に管理するシステムを導入し、集めたデータを実店舗やアプリでのコミュニケーションに活かしてきました。
とくに実店舗では顧客一人ひとりに合わせた接客を徹底しております。同ブランドの店員は、手元のタブレットを用いて、顧客のプロフィールやお気に入りのスタイル、アプリの利用履歴などを閲覧が可能になりました。それらのデータをもとに接客を行なっています。
同システムの導入後、1年間で平均購買額は12%増加、顧客のロイヤルティを示すNPS®や顧客満足度も向上したという結果が出ています。
【POINT】
①顧客の店舗上、EC上の行動データを収集する
②データを実店舗の接客に反映させる
店舗×EC 事例❸|UNIQLO

UNIQLOは6月5日(金)、「リアルとバーチャルの融合を体現した最新の店舗」と位置付ける店舗「ユニクロ 原宿店」をオープンしました。
実際にUTの世界観を体感できる「UT POP OUT」や着こなし発見アプリと連動した世界初の売場「StyleHint原宿」など、店舗での満足度の高い体験価値を創りだしています。
具体的には、「未来の服のライブラリー」というコンセプトの下、壁一面に240台のディスプレイを配置。ユーザーが「StyleHint」に投稿した最新の着こなしを検索・閲覧し、ディスプレイと対話しながら簡単にアイテムを見つけ、購入できる店舗となっています。

UNIQLO原宿店の店舗のプロデュースを担当したI&COのレイ・イナモト氏はECと店舗の融合について以下のように述べています。

ただ融合させれば良いというものではなく、“お客様目線”に立つことが最も重要です。
StyleHint原宿は、アプリを軸にオンラインとオフラインを融合させることで、これまでお客様が抱えていた課題、たとえば「この店舗に欲しい商品はあるのか」「自分の持っている服と合うだろうか」といった課題を解消しています。
またこれからの店舗の役割については以下のように述べています。
リアル店舗に求められる役割は、今までは「買う」というところでしたが、これからは「エンターテインメント」というところも入ってくると思います。
服に限らず、今後リアル店舗に求められるのはそういうところだと思っています。買うことだけを目的にしてしまうと、やはりどんどんオンラインに役目を取られてしまう。リアルだからこそできること=エンターテインメントを提供する場になるのが一つの線ではないかなと思います。
このように店舗とECを融合させる目的を「利便性の追求」だけにしてしまうと、ECに役割が取られてしまい、店舗の存在価値を創り出すことができなくなってしまうのです。
【POINT】
・“お客様目線”に立ち、ECと店舗の導線を作る
・店舗の存在意義を明確にする
・利便性の追求だけを目的にしない
店舗×EC 事例❹|蔦屋家電+

続いては蔦屋家電+です。
蔦屋家電+は「ライフスタイルを売る家電店」と謳っており、あえていえば「ライフスタイルを提案するショールーム」といえると思います。
書籍や家電に限らず、照明が、観葉植物が、ソファーが、店舗になじむように置かれていて、ここちよいライフスタイルを演出するアイテムとして提案されています。「モノを売る」というよりも、「ライフスタイルを体験してもらう」場であるといえます。

小売業界では「モノを売るより体験を売れ」と叫ばれています。
しかしネット通販で何でも選べて、安く買える時代に、ただ商品を並べて、「安いよ安いよ」と謳っても、ネット通販には価格でも品ぞろえでも負けてしまいます。
小売業はネットにない体験をしてもらう場にならなければならないとは散々言われていますが、蔦屋家電+はそれを愚直に体現させたのです。
また接客自体も大きく変化させました。蔦屋家電+のスタッフに売り上げのノルマはありません。むしろ、店に来た客は気に入った商品があれば、ネットの最安値で購入してもかまわないほどです。
スタッフは、商品の開発ストーリーやユーザー視点の暮らしの中での利用シーンなどを説明することにこだわり、重視するKPIも、1日に接した顧客との回数に変化させています。
【POINT】
・体験に特化させた店舗作り
・接客自体の変化
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、店舗とECの融合の事例についてご紹介させていただきました。
店舗とECの融合の本質的な目的は、単純な売上伸長のための手段ではなく、ブランドと顧客の健全な関係性の構築をすることです。
そのために単にECと店舗を融合させるのではなく、顧客視点での導線設計、体験構築が重要なことが今回の事例からお分かりいただけたかと思います。
新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は大きく変化しています。大きな変化の中で事業を推進する企業のみなさまにとって、この記事が貴社に貢献できれば幸いです。