新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、人々の生活も大きく変化しました。

その影響で低迷する店舗の売上を引き上げるために、顧客接点の強化・拡大に取り組む企業が増えています。その中でも注目をされている施策が、店舗とECの融合です。

日本においても、@cosmeや蔦屋家電+など店舗とECの融合を行い、売上伸長を達成している企業もあります。

試供品を試せるテスターバー(画像出典:アイスタイルプレスリリースより)

そこで本記事では「店舗とECの融合」を成功させる為のポイントについて解説します。

店舗とECの融合が必要な理由

まず成功させる為のポイントをお伝えする前に、
そもそもなぜ店舗とECの融合が必要なのか説明します。

この店舗とECの融合が必要な理由は以下の3点あります。
①感情的満足した顧客の重要性
②プラットフォームECの巨大化
③日本のEC化率
それぞれについて説明をしていきます。

❶感情的満足した顧客の重要性
まずアメリカに本社を置き、主に世論調査やコンサルティングを行うギャラップ社の主任研究員であるジョン・H・フレミング氏は顧客満足度調査で「とても満足した」と回答する顧客は、「合理的に満足した顧客(頭の満足)」と「感情的に満足した顧客(心の満足)」の2種類に分類できると言っています。

その際にとても重要になるのは、「感情的に満足した顧客」です。
合理的に満足した顧客の場合、他社商品が価格を下げた場合や機能をアップデートさせた時にそちらに乗り換えてしまう可能性が高いです。つまり体力がある企業しか勝てない競争になっていきます。

その為、顧客を感情的に満足させる購買体験が重要になっているのです。

また2018年出版の「小売再生-リアル店舗はメディアになる」の著者のスティーブン氏はそれでも顧客は店舗に足を運ぶと主張しています。

『小売再生 ―リアル店舗はメディアになる』ダグ・スティーブンス (著), 斎藤栄一郎 (翻訳)/プレジデント社

その理由として、「紀元前400年のローマ時代からショッピングを楽しんできた人間は『五感に訴えかけ、わたしたちを圧倒し、このうえなく楽しく心を揺さぶるような体験』を強く求めているからだ」とスティーブン氏は言います。

オンラインであらゆるものが手に入ってしまう時代において、顧客が店舗にわざわざ足を運ぶ機会は限りなく減っていますが、顧客の感情的満足を満たす為に「店舗での体験」が重要な要素になります。

❷プラットフォームECの巨大化
まず、以下の図のようにAmazonや楽天などのプラットフォームECは年々巨大化しています。そんな中でプラットフォームECが商品数や支払い方法の多様さなどでかなり優位性をもっている為、自社ECだけの売上では限界値が見えていることも明らかです。

 

その中でも自社ECでの売上を上げていくには、プラットフォームECとの差別化を図ることが重要です。それを可能にするのが、店舗での体験になります。

❸日本のEC化率
これまではECにおける、店舗を活用するメリットについて述べてきました。
理由の3つ目は店舗において、ECを活用する必要性についてご説明いたします。

まず、日本のEC市場についてです。
日本のEC市場規模はBtoCがCAGR(年平均成長率)11.0%、BtoBがCAGR5.3%と、BtoB・BtoC 共に伸びています。

 

それに比べて、店舗の成長率はほぼ横ばいであるのが下図から分かります。
つまり今後さらに勢いづくであろうECの状況を鑑みると、「販売機能」としての店舗は役割を果たせなくなる可能性があります。

そのように考えると、それぞれのチャネルの役割を明確化し、相互で顧客に対してアプローチする必要があると考えられます。

成功させるための3つのポイント

まず店舗とECが成功している状態とはどんな状態でしょうか。

私たちは店舗とECの融合が成功している状態を、単に売上の伸長ではなく、「ECと店舗が双方の価値を高め合うことで、ブランド価値が上昇し、売上が伸長している状態」と定義します。

では実際に店舗とECを融合を成功させるためのポイントについて、ご説明します。

成功させるためのポイント①|店舗での満足度の高い顧客体験

 

ポイントの1つ目は、「店舗での満足度の高い顧客体験」です。

小売企業が今後適応しなくてはならない現代のカスタマージャーニーは、以前のそれとは大きく異なっています。顧客の購入サイクルにおけるすべての接点を考え、その過程で何を達成したいかを考えなければならないのです。

その時に考えるべきはそれぞれのチャンネルの役割と達成すべき目標です。

そのように考えると、店舗の価値とはなんでしょうか。
商品を買うための場所でしょうか。それとも試着など商品を試すための場所でしょうか。

様々なチャンネルが存在する中において、店舗の価値は「3D・360度の体験を提供して、五感すべてに感動を与えることができること」です。それはまだデジタルでは、それを実現することはできないからです。

 

「@cosme TOKYO(アットコスメトーキョー)」が原宿にオープン。「世界で勝負できる化粧品小売店になる」|ネットショップ担当者フォーラム

そのような高い購買体験を提供しているのが、@cosme TOKYOです。株式会社コスメネクスト代表取締役社長 遠藤 宗 氏は以下のように述べております。

「店舗運営を行う時、あまりにビジネスモデルで考えるとお客様の楽しさが消えてしまうケースがよくあります。

ネットとリアルの融合で大事なことは、そもそも前提として「リアルが楽しい」という事です。

リアル店舗に足を運ぶために電車に乗ったり歩いたり、それだけで面倒なことです。だからこそ、移動する代わりに店舗に足を運ぶ楽しさがなくてはいけません。

@cosmeでは、「リアルがいかに楽しいか?」という点を店舗の基本としてやってきました。たとえばテスターバーを設置し、“試す楽しさ”や“試す出会い”を研究しています。」

そんな株式会社コスメネクストのオンプラットフォーム事業と店舗運営をメインとするビューティーサービス事業の売り上げは以下の通りです。
オンプラットフォーム事業は、売上高が同1.4%増の39億円、店舗運営をメインとするビューティサービス事業は売上高が同9.4%増の76億円になっています。

つまり店舗での満足度の高い体験がトリガーとなり、結果的にECと店舗の両方での売上が上がっていることが分かります。

成功させるためのポイント②|体験の定量化

 

ECでは顧客データや顧客行動の分析を行うのは当たり前ですが、店舗での顧客体験に関しても、「定量化」が重要です。

例えば、誰が来店して・どのくらい滞在して・どのようなやりとりを交わし・次にどこに向かったのか。さらには、その来店した人は初めて来店する人か・以前にも来店したことがあるのか・来店後SNSでどのような発信をしたのか等です。

それにより、顧客満足度、顧客の趣味嗜好を把握したうえで接客につなげられるのです。

これまでは店舗での定量化には限界がありました。しかしこれからは定量化することを前提にして店舗設計を行うことが必要になります。

そうすることで顧客一人ひとりの趣向や属性などを基に、顧客に対して個別にマーケティングを行っていくOnetoOneマーケティングが可能になります。

その行動や態度を認識する技術として以下のようなものがあります。

上記のようなツールを活用して、体験を定量化させることで、より満足の高い購買体験の提供が可能になり、ブランドと顧客に良好な関係性の構築が可能になります。

成功させるためのポイント③|店舗とECでの一貫した購買体験

顧客が特定のチャネルに依存しなくなると、すべてのタッチポイントで同じ購買体験を期待するようになります。つまり実店舗とECの融合は戦略を間違えるとブランド価値の低下に繋がります。

そんな中で米国の大手小売事業者「Nordstrom」のCOO(最高執行責任者)ウォーゼル氏は「Nordstromのデジタル資産と店舗資産を統合し、消費者に一貫した購買体験を提供する為に尽力する」と就任の際に語っていました。

具体的には顧客のプロフィールやアプリの利用履歴、実店舗での接客内容、決済データなどを一元的に管理するシステムを導入し、集めたデータを実店舗やアプリでのコミュニケーションに活かすことで、顧客一人ひとりに合わせ、店舗とECにおいて、共通の体験を提供することが可能になります。

具体的な例としては、米国のメンズアパレルブランド「BONOBOS」です。

2016年より、顧客情報やアプリの利用履歴、実店舗での接客内容、決済データなどを一元的に管理するシステムを導入し、集めたデータを実店舗やアプリでのコミュニケーションに活かしてきました。

とくに実店舗では顧客一人ひとりに合わせた接客を徹底しており、同ブランドの店員は、手元のタブレットを用いて、顧客のプロフィールやお気に入りのスタイル、アプリの利用履歴などを閲覧し、それらのデータをもとに接客を行なっています。

同システムの導入後、1年間で平均購買額は12%増加、顧客のロイヤルティを示すNPS®や顧客満足度も向上したという結果が出ています。

このように店舗とECの融合の姿は、ネットの体験がリアルにつながり、ネットの体験がリアルに味わえることがとても重要になっていくことが分かります。

まとめ

本記事では、店舗とECの融合について解説してきました。

店舗とECの融合の本質的な目的は、単純な売上伸長のための手段ではなく、ブランドと顧客の健全な関係性の構築をすることです。ブランドと顧客の健全な関係性は、結果的にブランドの長期的な成長に繋がります。

新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は大きく変化しています。大きな変化の中で事業を推進する企業のみなさまにとって、この記事が少しでもお役にたてましたら幸いです。